第206章

丹羽光世が、その女のことを思い出すのは――これが初めてではなかった。

大して重要でもないはずなのに。なのに、頭の片隅にへばりついて離れない。

丹羽光世は背筋を伸ばして立ち上がると、別のソファへ移って腰を下ろし、煙草に火をつけた。

「……どうしたの?」

島宮奈々未には意味がわからない。さっきまで普通だったのに、いきなり憂い顔の王子さまみたいな空気を出し始めた。

丹羽光世は深く吸い込み、ゆっくりと吐いた。煙の輪がいくつも浮かび、すぐにほどけて消える。

「島宮奈々未。俺は五年前、ひとりの女がいた」

丹羽光世は顔を上げ、底の見えない視線で奈々未を見据えた。隠したくない。天瀬姫代の一件で...

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